2学期初日、教室は「久しぶりー」と挨拶を交わす声が飛び交っていた。私も例に漏れず、亜美ちゃん以外の友達にそうやって声をかける。部活に入っていないと、夏休み中は本当に学校に来ることがないのだ。

「てかさぁ、見たよ。花火大会で。洗井くんと行ってたでしょ?浴衣で」

 私が「久しぶりだねぇ、元気だった?」と声をかけるなり、そう言ってきたのは佳穂だ。元気だった?という問いかけには、かなりおざなりに「うん」とだけ返してくれた。

 私を見れば、さっそく竜生くんとの話が出る。もちろん佳穂は友達として話題を出してくれただけだが。しかし夏休み前に感じていた、「あなたを洗井くんの彼女だとは認めない」という視線ややっかみが私の希望通りに収まってることは無さそうだな、と感じてしまった出来事だった。



 朝のチャイムが鳴るまでの間、亜美ちゃんを含めた友達数人と近況報告をしながら、私は竜生くんが教室に入ってくるのを今か今かと待ち構えていた。開け放たれた扉から人が入ってくるたび、そちらにチラチラと視線を送ってしまう。
 「洗井くんまだ来ないねぇ」と友達が茶化してくるぐらいにはわかり易く、気にしてしまっていたようだ。だって早く会いたいんだもん。
 あ、来た。登校日以来、久しぶりに見た竜生くんの制服姿は、かなりの破壊力で私の心臓を潰しにきていた。竜生くんにかかれば、なんの捻りもない白のポロシャツと黒のスラックスがオシャレな洋服に見えてしまうのだ。私服もたまんないけど、制服姿も乙なものだな、と舐め回すように見つめてしまった。
 そんな私の粘着質な視線に気づいたのか、竜生くんはクラスメイトからの挨拶に反応を返しながら、私の元へと歩いてくる。佳穂が「あ、彼氏きたじゃん」と私の腕を冷やかすように小突くものだから、なんだか照れてしまう。

「みんな久しぶり、おはよ。美琴、おはよ」

 私と一緒にいた友達たちにさらりと爽やかに挨拶をし、その後私だけに特別な笑顔をつけて挨拶をしてくれた。もうなんて言うか、完敗だし、お手上げです。
 さっきまで散々私たちのことを茶化し、話のネタにしてきた友達たちもだんまりである。
 みんながみんな口を揃えて「作り物みたいだね」と言うほどに整っている竜生くんのお顔は、もはや暴力であった。そんな美の暴力の権化である彼の至近距離での微笑みが、どれほどの破壊力を持っているのかよく考えてみてほしい。
 そりゃあ、時も止まるし、勝手に頬が赤く染まるってもんよ。一応の彼女である私でさえ、まだ慣れていないんだもん。仕方ないよ。誰も何も悪くない。
 美の破壊神こと洗井竜生くんはそんな胸中などつゆ知らず、「じゃ、また」と颯爽と体を翻し、自分の席へと向かって行った。

「美琴……あんなのと付き合ってて、よく心臓が持つね」

 あんなのとは失礼だが、しかし、言いたいことはよく分かる。私の心臓が他の人より丈夫に作られていて本当によかった。