結局私の家の前まで送らせてしまった。

「ありがとう。じゃあ、また連絡するね」
「うん。俺も電話するよ」

 と別れの挨拶をしているところに、「よお」という間の抜けた声が割って入ってきた。この声の持ち主は、もう確認しなくてもわかる。できることなら無視してしまいたいぐらいだ。
 しかし私がそう出来ても、洗井くんには無理だろう。声のした方へ顔を向けた洗井くんは、その人物に向かってペコリと会釈をした。

「美琴じゃーん。彼氏?ども、美琴の幼馴染の森脇礼人でっす。ついでに同じ高校でぇす。一年二組、剣道部でーす」

 彼氏?なんて知ってるくせに、白々しい奴である。
 礼人の自己紹介を聞いて、洗井くんは突然姿勢を正し、「はじめまして。美琴さんとお付き合いさせてもらってます、洗井竜生です。一年七組、バスケ部です」と挨拶したのだ。いや、こいつは私の家族でもなんでもないただの幼馴染だからね!

「あー、どもども。ご丁寧にありがとうございます」

 と礼人も洗井くんに向かって深々とお辞儀をしたのだ。絶対に面白がってるな……。

「あ、美琴。明日の晩ご飯、俺そっちで食べるから!じゃ!洗井くんもまた!」

 なんて言うだけ言って、さっさと自分だけ帰ってしまうのだから、本当に何がしたかったんだか。

「ごめんね。わけわからなさそうに見えて、根はいい子だから……」
「いや、全然。楽しそうな人だね」

 良かった、洗井くんが気にしてなくて。私は安堵のため息を吐き、「本当にありがとう。楽しかった。じゃあ、気をつけて帰ってね」と改めて別れの挨拶をした。
 別れ際のキスを少し期待したのだけれど、洗井くんはあっさりと帰って行った。
 ま、こんな家の前でできるわけないか。