昼休みの後の授業ってなんでこんなに眠いんだろ……しかも現代社会とか地獄じゃんか……。私はあくびを噛み殺し、教卓の前の席で先生の話を真剣に聞いている洗井くんの姿を見つめた。
 かっこよすぎる……後頭部しか見えないのにかっこよさがダダ漏れてるってどーゆーことなの。神なの?神。あぁ、私のこと好きになってほしいなぁ……ほんと、好き。すーきー。
 念仏を唱えるように私は心の中で好きを繰り返した。もはや呪いである。
 
 私の片想いはもうすぐで丸3ヶ月経とうとしている。
 出会いは入学式だ。昔からなにもないところでよく躓いていた私だが、その日も教室に向かう廊下で躓いた。
 やばい、入学式に躓くとか幸先悪すぎる。そう思って変に態勢を立て直そうとしたのが悪かった。足をぐねり事態は悪化。あ、これ転けるわ。覚悟した瞬間「大丈夫?」と体を支えてくれたのが、そう!彼!洗井竜生くんだった。神。
 「あ、ありがとう」とつまりながら発した言葉は洗井くんの顔を見た瞬間に霧散した。
 え、なにこの顔面。好き。私のタイプの顔ってこの人だわぁ……好き。
 「……大丈夫?どっか痛む?」と固まった私を気遣うように柔和に微笑んだ顔にまた心を鷲掴みにされた。……痛い、心臓痛い。殺される。この人私を殺す気だ。
 こくんと頷くことしかできない私に「よかった」とさらに笑った洗井くんにまんまと惚れました。ありがとうございます。

 残念ながらその日の私の記憶は洗井くんしかない。入学式の校長先生の話?あった?ホームルームの先生の話?右から左です。他のクラスメイト……いたいた、確かにいたんだけどね?
 だけど洗井くんの自己紹介はばっちり覚えている。
 少し低めのハスキーな声がはっきりと爽やかに自己紹介をした。名前、出身中学、高校での抱負、趣味。彼から発せられる言葉はすべて宝物のように煌めいていた。もう、好き。
 だけどそう思ったのはどうやら私だけではなかったようで、一年生にどえらいイケメンが入学したという噂はあっという間に広がったのだ。
 
 洗井くんは入学以来ずっとモテ期だ。いや、あの麗しいイケメン具合から考えると、生まれてから今日までずっとモテ期では……?
 そうなるとモテてるのが当たり前だから、洗井くんはモテてるって感覚ないのかもなぁ……。モテ期ってなに?みたいな。あ、それなら私も一緒だわぁ。モテ期経験したことないから、私。モテ期ってなに?って……あはは……。悲し。
 でもいいのだ。たくさんの人に好意を寄せられるより、たった一人、好きな人から好きだと言ってもらいたい。でもどうやったら意識してもらえるんだろ?
 恋愛偏差値の低い私は駆け引きもできなければ、男の子と仲良くなる方法も皆目見当がつかない。しかもあと一ヶ月もせずに夏休みに突入するのだ。
 んー。どうしよう。どうしたら洗井くんに意識してもらえるかなぁ。
 ……あ!告白だ!私の気持ちを伝えたらとりあえず意識してくれるんじゃない?うんうん。そうと決まれば早速行動に移そう!!
 私はニマニマと笑いながら計画を立てた。