猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

今見た光景が、目に焼き付いて離れない。

頭と心がズキズキと痛む。

病み上がりでもつれる足に鞭打って走った。

走って走って、三毛さんと初めて会った場所に辿り着いた時、「実森さんっ!」と後ろから腕を掴まれた。

振り向くと、息を切らせた三毛さんの姿。

「……放して下さい」

「放しません」

「放してよっ!」

「嫌だっ!」

怒鳴り声の様に声を荒げた三毛さんに、私はビクッ!と身体を震わせた。

「あ……すみません。怒鳴ったりして。実森さん聞いて下さい、今のは――」

「……んでしょ……」

「え?」

「誰でも、良かったんでしょう……?」

微《かす》かに頭の隅にあった言葉を口にしたら、凄く悲しくなって涙がボロボロと零れた。

「忘れろ、なんて簡単に言えるんなら、私じゃなくても良かったんでしょ……?あの場に私が居たから、私にしただけでしょ?だから忘れろなんてひどい事……その程度の事だったんでしょ!?」

叫んだ。

走って叫んだせいで頭が割れる様に痛い。

心も張り裂ける様に痛い。

「実森さん、落ち着いて!聞いて下さいっ!」

「聞きたくないっ!放してよっ!もう三毛さんには会わない!お店にも行かないっ!!」

「実森さんっ、話を――」

頭がグラグラズキズキ。

酷い頭痛のせいで、三毛さんが何かを言っているようだけど聞き取れない。

とにかくこの場から立ち去りたくて掴まれている手を放して欲しくて暴れた。

暴れている私の目の端に、ふと見知った姿が映った気がした。

楓……?

「放し……て……」

その瞬間、目の前が真っ暗になる。

「実森さんっ!?」

「実森っ!」

三毛さんと楓が私の名前を叫ぶ。

(あ……やっぱり楓か……心配して……来てくれたんだな……)

そこで、私の意識は途切れた。