「……って事があったのよ」

『へぇ~……』

スーツのまま、着替えもしないでベッドに座って話をしている。

仕事から帰って来たら『あれから進展あった?』と、楓から電話がかかって来た。

愚痴をこぼしまくり、二日酔いで出社した後会ってなかったから、その後に起こった事を今話してるんだけど……。

「へぇって、それだけ?」

楓から聞きたいって言って来たのに、素っ気ない態度に文句を言う。

『え?……あぁ、ごめんごめん』

電話の向こうから、微かに「カタ…カタカタ……」とキーボードを打つ様な音が聞こえる。

「ねぇ、忙しいんじゃないの?私の事よりそっちに集中した方が良くない?」

『ううん、大丈夫大丈夫!話を聞かないとこっちも進まないから』

「……は?どう言う意味よ?」

『へ?……ああ!なんでもない!こっちの話!』

んん?なんか、怪しい。

『あっ!菊地さんから電話入った!話の続きはまた今度!ごめん!じゃ、また!』

「あ、ちょっ……」

『ツー……ツー……ツー……』

有無を言わさず、切れてしまった。

「……ったく」

携帯を布団に放り投げた。

菊地さんも、またいいタイミング。

あ、菊地さんってのは、楓に付いてくれてる編集者さん。結構切れ者って聞いている。

はぁ……と、ベッドに横になる。

「明日は水曜日かぁ……」

枕元の棚に置かれた、卓上カレンダーを見て呟いた。

milk teaは定休日。

「つまんないな……あれ?」

なんか、明後日に丸が付いている。

「なんだっけ……?」

カレンダーを手に取り、ハッ!とする。

「楓の誕生日じゃんっ!!すっっっっかり忘れてた!!」

ここ最近いろんな事があってまったく頭になかった。

「うわぁ~……プレゼント、何にも用意してなかった!!」

どうしよう?

「あ、じゃあ……」

有給を取って、明日は会社を休もう。

「急だけど、課長に有給使えって言われてたし、仕事も忙しくないから取れるよね」

うん。そうしよう。

「久し振りに、百貨店にでも行こうかな。気晴らしにもなるし!」

そうと決まれば、課長に電話をして……。

あ、なんか少しウキウキして来た。

さっき放り投げた携帯を再度手に取り、電話帳から『作間(さくま)課長』を表示させた。