猫と笑顔とミルクティー~あの雨の日に~

「……亡くなった奥さんを一途に想い続ける。かぁ……」

楓が突然、ホントに突然ボソッと呟いた。

カップを持ち上げる私の手が止まる。

「でもさ、それも素敵な事だと思うけど、あたしはどうかと思うなぁ」

私がなるべく思わない様にしていた事を、楓にズバッと口にされて心臓が脈を打つ。

「……どうして?」

「だってさ、確かに自分が死んだ後も想って貰えるのは嬉しいし、それが良いって言う人もいるかもしれないけど、でもそれって本当に幸せな事かなぁ?なんか、前を向いていない気がして、もしあたしが奥さんだったら、嫌かな」

……楓が言っている事は、間違っていない気がする。

一人の人を想い続けるのは、確かに良い事。忘れる事なんて出来ないだろうし、忘れなくても良い。でも、三毛さんは本当にそれで幸せなんだろうか。

辛い時、淋しい時、嬉しい時。誰か側にいて欲しいって、思わないのかな。

三毛さんが不意に見せる淋しそうな笑顔が脳裏に浮かぶ。その笑顔を見る度に、私が本当の笑顔を取り戻してあげたい、と思うんだ。

でも、今の私では多分無理だと思う。

「……手強いと思うよ」

楓が私の気持ちを見透かした様に、言った。

「うん。分かってる……」

「引き返すなら、今じゃない?」

「……もう、遅いよ」

楓の目を見て、笑う。

そんな私を見て、やれやれ……と肩を竦め、楓が紅茶をすすった。