「まるで漫画か小説のようだね」

鼻と上唇でペンを挟み、私の話を聞きながらフムフムと頷いているコイツは、中学からの同級生で親友の『佐山楓(さやまかえで)』。

見た目は悪い方じゃないのに、家に引き籠っているせいかいつもスッピン、髪はボサボサ。中学からのジャージを着て、一日中パソコンとにらめっこをしている。

「漫画か小説って、そんな単純な話じゃないわよ」

「あら、失礼な!漫画だって小説だって、試行錯誤して出来上がるんですからね!単純なんかじゃないわよ!」

フンッ!と鼻息を荒くして楓がふんぞり返る。

「はいはい。それは失礼いたしました」

「心が籠ってないなぁ……」

ブツブツと文句を言っているけど、放っておこう。

「そんな事より、新作の調子はどうなのよ」

「うっ……」

楓の職業は、小説家。こんな成りしているけど、決してニートではない。

デビューして何作品かはまあまあの売れ行きだったんだけど、最近はスランプで作品が書けていない。でも本人はあっけらかんとした性格だから、多少は気にしているものの全体的に気にしてないみたい。

(それもどうかと思うんだけど)

楓曰く、無理やり考えても案が出ない時は出ないし、かと思いきや急に良い案が出る時もあるからそれを気長に待っているらしい。

なーんにも考えないで過ごす方が、パッと閃くんだって。

「あたしの話は置いといて、こないだ言ってた件、どうしたの?」

都合が悪くなったのか、話をすり替えて来た。

「ああ、あれ……」

実は今、会社を辞めようかどうしようか迷っていた。きっかけは、三毛さんのお店の求人広告。