「……でも、実際の三ヶ谷さんはキス魔でもロールキャベツ男子でもないわよ」

「そこはホラ、読者の為に……ねぇ?」

だからあとがきに『少しばかり私の想像も混じってます』って書いたんじゃない。

「コレ、いつ発売されるの?」

本を手に取り、実弥が聞いた。

「えーっと、来週の水曜日?」

「ふーん……」

何かを考えているのか、本の表紙をじーっと見たまま固まった。

「ど…どうしたの?」

やっぱりまだ怒っているのかな?と恐る恐る尋ねると、そうじゃなかった。

「じゃあ、お祝いしますか」

「……え?」

意外な言葉に、あたしはキョトンとする。

「お・い・わ・い!一応ね!スランプ脱出した訳だし」

「実弥……」

勝手に三ヶ谷さんとの馴れ初めを小説なんかにして本当はもっと怒っても良いのに、あたしのスランプ脱出を喜んでくれるのか。

「ありがとう」

本当にいいヤツ。

「でも、水曜日はお店定休日でしょ?三ヶ谷さんとデートとかしなくて良いの?」

「うん。毎日お店で会ってるし、一日くらいヘーキ」

「そっか」

へへ。

なんかちょっと嬉しい。

「さーて、なに奢ってもらおっかな」

「え!?お祝いなのにあたしの奢りなの!?」

「あったり前でしょ?親友を売った罪は、重いわよ」

実弥が目を細め、口角を上げてニヤッと微笑む。

「……はい」

この時、多分あたしは一生実弥に頭が上がらないんだろうな、と悟った。


―おわり―