「もうお店の仕事も大分慣れましたね」

「はい。お手伝いもしていたので」

「そうですか。それは良かった」

ツンツン、と三毛さんが私の頬を突っ付く。

あれから私は、milk teaで働き始めた。

生田さんは?と思った方。

お答えいたしましょう。

生田さんはあの後、すぐに辞めてしまいました。

『私になびかない男の側にいてもつまらないから』

と言う理由で、milk teaを去って行った。

三毛さんは呆然だったけど、私はあまりの清々しさにちょっと笑ってしまった。

生田さんが辞めたとなると、また人手が足りなくなったワケで。

私は、それならっ!と思い、会社に辞表を出し、『雇ってくれ!』と、milk teaの門を叩いた。

元々、生田さんが来る前にそう決心していたから、会社を辞める事に躊躇はなかった。

ただ、雇って貰えなかったらどうしよう。と言う不安はあったんだけど。

私の行動に始めは驚いていた三毛さんだったけど、快く承諾してくれて、今に至る。

「でも、紅茶の淹れ方、もう少し上手くなりたいです」

ギュッと、三毛さんに抱き付いて言った。

当たり前なんだけど、三毛さんが淹れてくれる紅茶にはてんで敵わない。

三毛さんを追い越したい、とかではなく、少しでも三毛さんに近付きたかった。

「それじゃ、特訓しますか!……その前に……」

「え?……キャッ!」

突然身体が宙に浮き、抱き抱えられた。

「み、三毛さん!?」

見ると、三毛さんが満面の笑みを浮かべている。

なんか、良からぬ事を考えていそうな。

そして、この流れから察するに……。

「……いいですか?」

やっぱり。

「……後片付け、残ってますよ?」

「あとで僕がしておきます」

「ミルクティー、淹れてくれます?」

「ええ、勿論です」

『じゃあ、良いですよ』と言う私の返事を聞いた三毛さんは、裏の休憩所へと歩き始めた。

大分流され始めてる私も、これで良いのか?と、少し不安になる。

抱えられて、下から三毛さんを覗く。

(嬉しそう……)

完璧にロールキャベツ男子な三毛さんに、この先も翻弄されるのか、と思ったけど、まあ良いかと思ってしまう辺り、惚れた弱味ってやつかな?

「ニャーン」

どこからともなく現れたアールも、私達の後を付いて来ようとする。

しかし三毛さんは、

「良い子で待っててね……」

とアールにウインクをして、『staff only』と書かれた扉を閉めた。



        ―End―