―1ヶ月後―



チリン――と鈴の音を響かせ、ドアが開く。

「いらっしゃいませ!」

私は、パッ!と顔を上げ、声をかけた。

「おっ。実森ちゃん、今日も元気だね!」

常連の金さんが、新聞紙片手に入って来た。

「はい!今日も元気です!いつもので良いですか?」

「おう!よろしくな」

「はい!お待ちくださいね!」

私と金さんは、毎度お馴染みの会話を楽しんでいた。

すると横から、

「よく言いますね。こないだ盛大に風邪を引いた癖に」

食器を下げに来た三毛さんが、チャチャを入れて来る。

私は、その言葉にピクッと眉を動かし、

「あれ?そもそもの原因って誰のせいでしたっけ?」

笑ってない笑顔で、三毛さんに問う。

「……僕のせいです、すみません」

「そうですよね」

素直に謝って来たので、許してやる。

「ぶわっはっはっはっ!三毛ちゃん、早速尻に敷かれてるねぇ!」

私達のやり取りを見ていて、金さんが笑い出す。

「そうなんです。実森さん、意外と気が強くて」

三毛さんが、ハンカチで目元を押さえる。

私はカチンッ!と来て、それに言い返した。

「それを言ったら、三毛さんだって意外とズボラじゃないですか!こないだだって、シワシワのシャツで出掛けようとするし、まさかの初デートで遅刻して来るし!しかも頭爆発してたし!予定してた映画観れなくて、まあ、仕方無いか……と思ってレストランに入ったは良いけど、ワイン一杯で酔い潰れちゃうし!あの時はホント、散々だったんですからねっ!?」

人指し指をビシッ!と立てて、詰め寄った。

「うっ……それは……」

「それは、なんです?」

「……ごめんなさい。今度からはちゃんとします」

「謝れば済むと思ってるんですか?」

「……ごめんなさい」

涙目でシュン……と縮こまった三毛さんを見て、ちょっと言い過ぎたかな?と思う。

はぁ、と溜め息を吐き、

「……まあ、次からちゃんとしてくれれば良いですから」

と、仏心を出した。

……のが間違い。

「本当ですかっ!?」

三毛さんが私の手を掴み、パァァァッ!と顔を輝かせる。

するとどこからともなく「あ~あ」と言うため息交じりの声が聞こえた。

え、え?何?

「……実森ちゃん。そこで許しちゃ、三毛ちゃんの思うツボだよ……」

そう言いながら、金さんが頭を横に振る。

「え?……え?」

店内を見回すと、他のお客さん達、特に女性達が、うんうん、と頷いていた。