「お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
直春はけろっとして、店員からパフェを受け取り、激辛チゲを千草の方へ寄せた。
「・・・変な冗談はやめてください」
「妄想が激しいんですよ、僕」
千草が努めて冷静にそういうと、直春はおどけたようにそういいながらスプーンを千草の方へと寄せた。
「すみませんでした」
直春は、にこやかに笑うと、甘ったるそうな生クリームたっぷりのパフェに手を伸ばした。
「もうこういう冗談はやめていただきたいのですが」
「わかりました、ごめんなさい。佐々木さんの職業のことは他言しませんから」
千草は、キムチチゲを食べる気分になれず、直春を睨みつけながら話を続けた。
「無職というここですが、渡辺さんは普段何をなさっているのですか?」
「僕ですか?」
直春は、パフェを食べる手を止めた。
「パチンコと競馬と・・・あとは宝くじとか賭け麻雀とか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
千草は絶句した。
「冗談ですよね」
「いえ、冗談じゃないです。僕、すこぶる運がいいんです。これを続けていたら普通に毎日暮らせます」
「ふざけないでください」
千草は、手前にあるのがスプーンではなくフォークであればかっとなって直春の膝にぐさりと穴をあけてしまいそうなくらいイライラしていた。というか、何故うどん入りキムチチゲにスプーン?お腹がすいている千草は余計にイライラしてきた。
「じゃんけん」
直春は突如拳を振り上げた。
「ぽん」
日本人はそう言われると、勝手にぐーかちょきかぱーを出してしまうらしい。千草は、ぐーを反射的に出してしまっていた。
「ほらね」
直春は、ぱーを出して微笑んでいた。
「なんですか、ただの偶然でしょう?」
「じゃんけん」
また直春が拳を振り上げた。
「ぽん」
千草は、今度はぱーをだした。
「俺、じゃんけん負けたことないんですよ」
直春はちょきを出していた。
「くっ・・・まぐれよ、こんなの」
「何回でも付き合いますよ、うどんがのびるまえに勝てるといいですが」
「渡辺さんって無職の上に性格が悪いんですね」
千草がそういうと、直春は箸入れから箸を出して千草に差し出した。
「その代わり運がよくて家族思いですけどね」
「家族思いだったら、もっと家族に会いにいくべきではないですか?」
箸をふんだくるようにとり、キムチチゲうどんを口に運ぶ。千草は辛いものが大好きだった。千草の母は、体に悪いからやめなさいというが、千草は母がいない場所ではこういう辛いものを食べる。
「無職なんですから、母に合わせる顔がないんですよ。あ、でも儲けたお金で仕送りは送っていますよ」
「働けばいいじゃないですか」
「働きたくても働けないんですよ、僕。社会不適合者なんです。精神病を患っていまして」
「どういう精神病なんですか?」
「就職すると発症するんです」
「何をふざけたことを」
「本性が隠せなくなってきましたね」
直春にそう言われて、千草は眉の間にしわを寄せた。
「お母様といる時は、聡明で優しい方に見えたのですけどね、お母様が娘さんが人に言えない仕事をしているかもしれないと知ったら悲しむでしょうね」
「何がいいたいんですか」
「僕のお願いは最初から一つだけですよ。僕とお付き合いするフリをしてください。ただそれだけです」
「私を脅すんですか」
「いえいえ、脅すなんて。ただ、僕は余命が少ない母ちゃんの為に美人で聡明で優しそうなあなたとお付き合いしているということを伝えて安心させてあげたいだけですよ」
「安心させて死なせてあげたい、と?」
千草は、冷たい声でそういって箸を置いた。そして、狼が天敵を目にしたような鋭い瞳で直春を見つめた。
「はい」
直春は、曇りのない笑顔で答えた。
「僕にはもう出会いもないですし、母ちゃん、ああ見えてケチで見栄っ張りなんですよ。お金もそんなにない癖に上等そうな昔の着物引っ張りだしてきて、僕が恥ずかしくないようにって。いいところの家に見られれば、お嬢さんもの僕を気に入ってくれるかもしれないとか。ナイフとフォークを100均で買ってきて練習したりして。ずっと元気だって僕に嘘をついてきていたんです。母ちゃんは佐々木さんを気に入っています。結婚するといえば、天国にいって自慢できるでしょう」
「・・・・・・・」
もうこの男は、自分の母親が死ぬことしか考えていないのか。そう思っていた。だが違った。千草は、直春と違いそういうことは考えないようにしてきた。母親が死ぬなんて考えたくなくて避けてきた。だが、この男は、逆にもうそこまで考えている。驚くべきことに、天国に行った後の母親のことまで考えている。
「母ちゃんは、僕の仕送りも手をつけずとってあるみたいなんです。僕が結婚する時とか、将来の為にって。そんな母ちゃんを安心させてあげたいんです」
「私と結婚するフリをするとおっしゃっていましたけれど、そのお金はどうするんですか?」
直春の母親が貯めてきた直春の幸せになるためのお金。もし直春がそのお金を直春の母親の葬式代にするというようなことがあれば・・・千草は直春をとびきり残忍な方法で殺してやろうと考えた。
「貴方にあげますよ。」
「はあ?」
だが、直春は平然とした態度でそう答えた。
「ありがとうございます」
直春はけろっとして、店員からパフェを受け取り、激辛チゲを千草の方へ寄せた。
「・・・変な冗談はやめてください」
「妄想が激しいんですよ、僕」
千草が努めて冷静にそういうと、直春はおどけたようにそういいながらスプーンを千草の方へと寄せた。
「すみませんでした」
直春は、にこやかに笑うと、甘ったるそうな生クリームたっぷりのパフェに手を伸ばした。
「もうこういう冗談はやめていただきたいのですが」
「わかりました、ごめんなさい。佐々木さんの職業のことは他言しませんから」
千草は、キムチチゲを食べる気分になれず、直春を睨みつけながら話を続けた。
「無職というここですが、渡辺さんは普段何をなさっているのですか?」
「僕ですか?」
直春は、パフェを食べる手を止めた。
「パチンコと競馬と・・・あとは宝くじとか賭け麻雀とか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
千草は絶句した。
「冗談ですよね」
「いえ、冗談じゃないです。僕、すこぶる運がいいんです。これを続けていたら普通に毎日暮らせます」
「ふざけないでください」
千草は、手前にあるのがスプーンではなくフォークであればかっとなって直春の膝にぐさりと穴をあけてしまいそうなくらいイライラしていた。というか、何故うどん入りキムチチゲにスプーン?お腹がすいている千草は余計にイライラしてきた。
「じゃんけん」
直春は突如拳を振り上げた。
「ぽん」
日本人はそう言われると、勝手にぐーかちょきかぱーを出してしまうらしい。千草は、ぐーを反射的に出してしまっていた。
「ほらね」
直春は、ぱーを出して微笑んでいた。
「なんですか、ただの偶然でしょう?」
「じゃんけん」
また直春が拳を振り上げた。
「ぽん」
千草は、今度はぱーをだした。
「俺、じゃんけん負けたことないんですよ」
直春はちょきを出していた。
「くっ・・・まぐれよ、こんなの」
「何回でも付き合いますよ、うどんがのびるまえに勝てるといいですが」
「渡辺さんって無職の上に性格が悪いんですね」
千草がそういうと、直春は箸入れから箸を出して千草に差し出した。
「その代わり運がよくて家族思いですけどね」
「家族思いだったら、もっと家族に会いにいくべきではないですか?」
箸をふんだくるようにとり、キムチチゲうどんを口に運ぶ。千草は辛いものが大好きだった。千草の母は、体に悪いからやめなさいというが、千草は母がいない場所ではこういう辛いものを食べる。
「無職なんですから、母に合わせる顔がないんですよ。あ、でも儲けたお金で仕送りは送っていますよ」
「働けばいいじゃないですか」
「働きたくても働けないんですよ、僕。社会不適合者なんです。精神病を患っていまして」
「どういう精神病なんですか?」
「就職すると発症するんです」
「何をふざけたことを」
「本性が隠せなくなってきましたね」
直春にそう言われて、千草は眉の間にしわを寄せた。
「お母様といる時は、聡明で優しい方に見えたのですけどね、お母様が娘さんが人に言えない仕事をしているかもしれないと知ったら悲しむでしょうね」
「何がいいたいんですか」
「僕のお願いは最初から一つだけですよ。僕とお付き合いするフリをしてください。ただそれだけです」
「私を脅すんですか」
「いえいえ、脅すなんて。ただ、僕は余命が少ない母ちゃんの為に美人で聡明で優しそうなあなたとお付き合いしているということを伝えて安心させてあげたいだけですよ」
「安心させて死なせてあげたい、と?」
千草は、冷たい声でそういって箸を置いた。そして、狼が天敵を目にしたような鋭い瞳で直春を見つめた。
「はい」
直春は、曇りのない笑顔で答えた。
「僕にはもう出会いもないですし、母ちゃん、ああ見えてケチで見栄っ張りなんですよ。お金もそんなにない癖に上等そうな昔の着物引っ張りだしてきて、僕が恥ずかしくないようにって。いいところの家に見られれば、お嬢さんもの僕を気に入ってくれるかもしれないとか。ナイフとフォークを100均で買ってきて練習したりして。ずっと元気だって僕に嘘をついてきていたんです。母ちゃんは佐々木さんを気に入っています。結婚するといえば、天国にいって自慢できるでしょう」
「・・・・・・・」
もうこの男は、自分の母親が死ぬことしか考えていないのか。そう思っていた。だが違った。千草は、直春と違いそういうことは考えないようにしてきた。母親が死ぬなんて考えたくなくて避けてきた。だが、この男は、逆にもうそこまで考えている。驚くべきことに、天国に行った後の母親のことまで考えている。
「母ちゃんは、僕の仕送りも手をつけずとってあるみたいなんです。僕が結婚する時とか、将来の為にって。そんな母ちゃんを安心させてあげたいんです」
「私と結婚するフリをするとおっしゃっていましたけれど、そのお金はどうするんですか?」
直春の母親が貯めてきた直春の幸せになるためのお金。もし直春がそのお金を直春の母親の葬式代にするというようなことがあれば・・・千草は直春をとびきり残忍な方法で殺してやろうと考えた。
「貴方にあげますよ。」
「はあ?」
だが、直春は平然とした態度でそう答えた。
