あれから、直春は帰ってこなかった。お通夜もお葬式も千草一人で出席した。本当に勝手な男だった。自分のことを知った直春が恐れて逃げたのだろうか、それとも何か事件に巻き込まれたか、それとも仕事を行う様子のない自分にしびれを切らした組織の人間が殺したか。どちらにしてもターゲットを取り逃がし、行方もわからないなど、殺し屋失格である。
千草は、康子が亡くなってから食事をとっていなかった。ずっと、玄関の前で、膝を抱えて座っていた。何かを待っているように、誰かの帰りを待っているかのように。
携帯が鳴った。知らない番号だった。
「はい」
「もしもし、こちら東京○○病院のものですが」
千草のかさかさの唇が少し開いた。
「こちらに佐々木直春さんという患者さんが―」
大きく目を見開いた千草は、跳ねるように立ち上がった。
東京へ帰るのは久しぶりだった。千草は、クマだらけの目元に、やつれた顔で東京へと向かった。
「直春・・・」
病室で寝ていたのは全身傷だらけの男だった。戦争に行って帰ってきたかのように痛々しく、生きているのが不思議なくらいだった。病院の先生もそういっていた。テロに巻き込まれたか、何か事件に巻き込まれたのか、どちらにしろ山場は通過したらしい。とんでもない強運の持ち主だと、先生は驚いていた。
人の気配を感じたのか、直春は薄く目を開けて入ってきた千草を視界に入れた。
「千草・・・」
「どこいってたのよ、何よその怪我」
「一命をとりとめた・・・どうやら俺は、やっぱり運がいいらしいぞ」
「答えになってないわよ、馬鹿」
千草は、自然と溢れてくる涙を隠すこともなく、直春に駆け寄った。
「千草の就職先に、挨拶に行ってきたんだ。千草さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいていますって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
千草は、言葉の意味を理解した。飯塚の上司、氷上真冬。過去のこの男はそうだったのかもしれない。でも、今千草の目の前にいるのは、佐々木直春。運がよくて家族思いな男だった。
「どうしてそんな無茶なことしたのよ」
直春は、ベットの上で拳を握りしめている千草の手を震える手で握った。
「千草の帰る場所は・・・俺の家で充分だ」
「そんなこといって、あんたが帰ってこなかったら意味がないでしょう?」
「帰ってくるつもりだったよ、俺は運がいいから」
本当に馬鹿な男だ。どうしようもない男だ。千草は、泣きながら自分の手を握っている直春の手に自分の手を重ねた。
「俺は家族思いで、運がよくて、おまけに超が付く程愛妻家なんだよ」
組織のボスと対峙したとき、直春はそう言ったことを思い出し顔を隠そうとしたが、体中が痛くてできなかった。
「毎日通うわ」
千草がそういうと、
「全く病院に縁のある家族だ」
そういって直春は微笑んで、目を閉じた。
千草は、康子が亡くなってから食事をとっていなかった。ずっと、玄関の前で、膝を抱えて座っていた。何かを待っているように、誰かの帰りを待っているかのように。
携帯が鳴った。知らない番号だった。
「はい」
「もしもし、こちら東京○○病院のものですが」
千草のかさかさの唇が少し開いた。
「こちらに佐々木直春さんという患者さんが―」
大きく目を見開いた千草は、跳ねるように立ち上がった。
東京へ帰るのは久しぶりだった。千草は、クマだらけの目元に、やつれた顔で東京へと向かった。
「直春・・・」
病室で寝ていたのは全身傷だらけの男だった。戦争に行って帰ってきたかのように痛々しく、生きているのが不思議なくらいだった。病院の先生もそういっていた。テロに巻き込まれたか、何か事件に巻き込まれたのか、どちらにしろ山場は通過したらしい。とんでもない強運の持ち主だと、先生は驚いていた。
人の気配を感じたのか、直春は薄く目を開けて入ってきた千草を視界に入れた。
「千草・・・」
「どこいってたのよ、何よその怪我」
「一命をとりとめた・・・どうやら俺は、やっぱり運がいいらしいぞ」
「答えになってないわよ、馬鹿」
千草は、自然と溢れてくる涙を隠すこともなく、直春に駆け寄った。
「千草の就職先に、挨拶に行ってきたんだ。千草さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいていますって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
千草は、言葉の意味を理解した。飯塚の上司、氷上真冬。過去のこの男はそうだったのかもしれない。でも、今千草の目の前にいるのは、佐々木直春。運がよくて家族思いな男だった。
「どうしてそんな無茶なことしたのよ」
直春は、ベットの上で拳を握りしめている千草の手を震える手で握った。
「千草の帰る場所は・・・俺の家で充分だ」
「そんなこといって、あんたが帰ってこなかったら意味がないでしょう?」
「帰ってくるつもりだったよ、俺は運がいいから」
本当に馬鹿な男だ。どうしようもない男だ。千草は、泣きながら自分の手を握っている直春の手に自分の手を重ねた。
「俺は家族思いで、運がよくて、おまけに超が付く程愛妻家なんだよ」
組織のボスと対峙したとき、直春はそう言ったことを思い出し顔を隠そうとしたが、体中が痛くてできなかった。
「毎日通うわ」
千草がそういうと、
「全く病院に縁のある家族だ」
そういって直春は微笑んで、目を閉じた。
