「なんだよ」
俺は頭を抱えた
「ノックしたんだ」
あいつは俺の頭を撫でる

あいつが部屋に入ってくるのはめずらしい
夏休み初日に起こされたのが初めてで
今回2二回目
何用かとベッドの端に座った

あいつも横に座るもんだと思っていた
が、座った俺をベッドに押し倒して覆いかぶさった
予想はあっさり裏切られた

「なんだよ」
俺はあいつの鎖骨を両手で押した
「引っ越しするんだ」
あいつは俺の両腕を簡単にコントロールする

「引っ越し?」
思わぬワードに言葉を繰り返すことしかできない
「うん。母さんが転勤になったから」
あいつはまだ俺の両腕を離さない

「そっか」
家族の事情に口を挟めるはずもない
「だから最後の日まで一緒に寝たい」

おっと そうきたか
「わかった」
その言葉はあいつを俺から離し
枕とタオルケットを向こうの部屋から持ってこさせた

今夜は狭いセミダブルのベッド
背中につくあいつの(ひたい)
引っ越しはいつなんだろうか
その額に聞く勇気はなかった23時40分