鉛のように重い体を動かし、玄関を出る。

 二月の始まり。寒さに思わず顔がこわばる。白い溜息をこぼしてから、徒歩十分程度の本屋に向かう。

 午前九時。

 心臓はバクバクだった。わずか十分の道のりで何度引き返そうと思ったことか。それでも、なんとか目的の本屋まで到着した。

 目の前にはまだ閉まっている本屋。

 今日から私はここでアルバイトをする。

 何度ついたかわからない溜息をもう一度ついてから、指定された裏口から店内に入る。

 一昨日、採用の連絡をもらった際に説明してもらった通り、店内の奥にあるスタッフルームに向かう。

 スタッフルームの前に立つと中から従業員と思われる人たちの話し声が聞こえてきた。多分二人かな?どちらとも男性だ。

 ああ、帰りたい。

 今この中にいる人たちとこれから働いていくんだ。うまく馴染むことができるだろうか。いや、きっと無理なんだろうな。

 だって、今までだってうまくできたことなんてないんだから。

 昔から人見知りだった。学校でもあまり輪の中に入れず、それでも全く友達がいなかったわけじゃない。でもそれは学校という環境があったからだと思う。

 学校の外に出れば、対人関係をうまく築いていくことはより困難になった。今までいくつもバイトをしてきたけどどこの職場でも馴染めず孤立した。

 きっと、今回も、おんなじだ。

 動悸がする。緊張で体が動かない。

 早く中に入って挨拶しなきゃ。そう頭では思っているのにどうしても体が動いてくれない。

 どうしよう。このままじゃ、また、アレが来る。

 血の気が引いていくような感覚を覚えたその時だった。

「なーにしてるの?」

 背後から男性の声がし、驚いて振り返ると笑顔の男の人が立っていた。

 年齢は私と同じで二十代前半かもっと下かも。背丈も私と同じくらいで155センチくらいかな。小柄で茶髪のその人は、人懐っこそうな笑顔を私に向けている。