周りの奴らは俺のことをチャラいって言う。けど、実際俺は異性が苦手だ。何を話していいか正解がわからないから、仲良くなるのに時間がかかる。

 それでも俺の適当な性格があってか異性の友達は何人かいる。

 まあ、無難にやり過ごすってのができるから、最終的にはそれなりに打ち解けることができる。

 今日来る新人の子は昨日店長からの連絡で若い女性の人だって聞いた。内心は苦手だけど、今回もうまく無難にやろう。そう決めていた。

 松田紗月さん…かあ。

 名前だけだとやっぱわかんねえな。

 ま、話しやすい子だといいな。

 そして、その人は現れた。

 こっちにまで伝わってくるほどの緊張した様子で彼女は現れた。俺はそんな彼女から目が離せなかった。

 誰かをこんな、いとも簡単に好きになるなんて、こんな強烈な感情を一瞬でほんの一瞬で抱けるなんて思ってもみなかった。

 彼女はなぜかスタッフルームの扉の前で突っ立っていた。けどすぐに想像できた。きっと緊張で中に入れないんだろう。

 俺はいつも通りのノリとテンションで松田さんに挨拶をする。しかし、津本さんがチャラいと言ったせいか松田さんは明らかに俺を警戒した。

 津本さん、マジ、なんて事言うんだよ。

 いや、でも俺の挨拶も確かにそれだけ見たらチャラい…か。

 いきなりさっちゃん呼びもまずかったか?

 ああ、やり直してえ。マジで一からやり直してえ。

 そう思ってたら帰りまで俺はやらかしてしまったようだ。あくまで自然に会話をしようとしただけなのに、思いっきり困らせてしまった。

 お疲れ様ですと言い残し逃げるように休憩室を出て行ったさっちゃんの背中を俺は見つめることしかできなかった。

 ああ、思いっきり警戒されてる。

 なんならもうすでに嫌われてさえいるかもしれない。

 豆腐メンタルの俺の心が折れるのは容易だった。

 皆、チャラいって簡単に言うなよ。こっちは惚れた人相手に距離の詰め方簡単に間違えるくらいには恋愛経験少ねえんだよ。しかも、一目惚れなんて初めてで、どうしていいか分かんねえのに。

 交際人数だってたった二人だし、それも中高生の頃数ヶ月程度だけの青い交際だ。

 茶髪でピアス開けてて喋り方が軽いからチャラいって認定されるんだろうな。さっちゃん、そう言うタイプ苦手そうだし、いっそのこと黒髪にでもするか?

 ああ、マジ、やり直してえ。



 ショックを抱えたままそれを紛らわせるようにチャリを飛ばし、家に帰る。玄関に入ると、ちょうど外出しようとしていた弟と鉢合わせする。