辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 初めてフィリップ殿下がエレナと出会ったそのとき、サリーシャはその場に居合わせた。
 それは、今から一年ほど前、サリーシャとフィリップ殿下が王宮内を、世間話をしながら散歩しているときのことだった。サリーシャがふと言葉を止めたフィリップ殿下の視線の先を追うと、きょろきょろと辺りを見回す可愛らしい少女がいた。

「レディ。どうかしましたか?」
「あ。あの、今日はデビュー前に国王陛下にご挨拶に行くはずが父とはぐれてしまいまして。どちらに行けばよいのか、広すぎてさっぱり……」

 社交界デビューを前に国王陛下にご挨拶に来ていたエレナは、迷子になり捨てられた子猫のような表情を浮かべていた。眉尻が下がり、不安そうにあたりを見回す姿は女のサリーシャから見ても庇護欲をそそった。

「それなら謁見控室だな。よし、散歩ついでに案内しよう」

 元々優しいフィリップ殿下はすぐにそう言うと、片手をエレナに差し出した。
 サリーシャは静かにその横に同行する。エレナはそのとき、ちょうど十六歳の誕生日を迎えて社交界デビューのために初めて王都に出てきたと言った。