サリーシャの返事を聞いたセシリオは、ほんの僅かに口の端を持ち上げた。
 よく見ていないとわからないほど僅かな変化だが、ここにきてからと言うもの、セシリオをよく見ていたサリーシャはその変化にすぐに気付いた。

「どこか、行ってみたい場所はあるか?」
「いいえ。お任せしますわ」
「そうか。では、今年は小麦に害虫がついて不作だったと聞いたので何件か小麦屋を回って状況を聞きに行ってもいいか? あとは、鍛冶屋に頼んでいた防具の修理状況を聞きに行きたい。それと……」

 セシリオは考え込むように宙を見つめると、次々に行きたい場所をあげた。そのどれもが、サリーシャの知る通常の貴族令息が婚約者を連れて行くような場所とは程遠い、完全に仕事で用事があるとしか思えない場所ばかりだ。
 セシリオは休みを取ったと言っているが、サリーシャはこれではちっとも休みではないと思った。けれど、本人はこれで休みを取ったと思っているのだろう。

「はい。それで構いませんわ」

 フフっと笑い出したい気持ちを堪えて、サリーシャは微笑んだ。