「ああ。この屋敷が建った時から少しずつ集められた本が揃っている。アハマスという土地柄、ダカール国の本もある。それに、兵法が記された本が多いな。歴代のアハマス辺境伯夫人が使っていたから女性向けの本もそれなりにあるはずだ」
「少し見てみても?」
「もちろん。ここにある全ての本を好きにする権利が、きみにはある」

 サリーシャは少し浮ついた気分のまま、図書室の書架の間を歩いた。廊下は石タイルだが、部屋の中は絨毯が敷かれているため、靴の裏から絨毯の柔らかな感触が触れた。部屋はサリーシャが滞在している客室を二部屋潰したくらいの広さがある。目測で約一メートル間隔に並んだ本棚は三分の二ほどが埋まっており、残りの三分の一は何も入っていない。きっと、この先もここで暮らす人々が買い足していくのだろう。
 ざっと歩き回って背表紙を眺めると、「兵法」だとか「陣の組み方」だとか、やはり戦術に関わる本が多そうだ。しかし、そんな中にも刺しゅうのデザイン集やお花の図鑑、ファッションの本や旅行記や恋愛小説らしきものもあるのが見えた。

「とても素晴らしいですわ。わたくし、しばらくはここに籠ってしまいそう」
「籠るのもいいが、適度に息抜きして過ごしてくれ。外に出たかったら、言ってくれれば護衛もつける」

 セシリオは興奮気味に本棚の一部を見つめるサリーシャの様子を見て、くくっと小さく笑う。