サリーシャはその言葉を聞き、戸惑った。
ここの人達が皆いい人なので居心地がよくてすっかりと忘れていたが、自分はここにアハマス辺境伯夫人となるために来たのであり、遊びに来たわけではないのだ。結婚式をすれば、サリーシャはセシリオの妻となる。妻となれば、この背中の傷は隠し通せない。
「……三ヶ月は、少し早すぎませんこと?」
カラカラに乾いた喉を絞り出してやっとのことで出てきたのは、そんな台詞だった。
時間稼ぎをしても行きつく先の未来は同じだ。けれど、サリーシャは図々しくも、思った以上に居心地のよいこの地に、少しでも長くいたいと思ってしまった。
「早すぎるか? ドリスには三ヶ月あれば大丈夫だろうと言われたのだが……。俺はこういうことにあまり詳しくない。確かにドレスを作るのにもっと時間がかかる可能性もあるし、きみが早すぎるというなら、そうなのかもしれないな」
セシリオは特に疑問を持つ様子もなく納得したように頷くと、「では、きりよく半年後で調整しようか」と微笑んだ。その笑顔があまりにも眩しすぎて、サリーシャは泣きたい気分になって、そっと瞳を伏せた。



