辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する


 やっぱり、この人はとてもかわいらしい人だ。
 この人となら、幸せになれるかもしれない。

 そんなことを考えて、サリーシャは慌てて頭を振る。
 サリーシャは目の前のこの人に、重大な秘密を隠している。幸せな未来など、あるわけがないのだ。

「サ……。サ……シャ? サリーシャ?」

 名前を呼ばれていることに気付き、サリーシャはハッとして顔を上げた。気付けは、セシリオが訝しげにこちらを見つめている。

「急に顔色が悪くなったようだが、大丈夫か?」
「大丈夫です。申し訳ありません」
「そう? まだ疲れが残っているのかもしれない。屋敷内は好きに出歩いて構わないが、疲れをためないように今日もゆっくり休むといい」
「……ありがとうございます」

 心配そうに顔を覗き込むセシリオの顔を直視することができず、サリーシャは顔を俯かせた。きっと本当にサリーシャのことを心配しているのだろう。

 ──わたくしはなんと、酷い人間なのだろう。

 サリーシャは己の醜悪さを垣間見た気がして、そっと二の腕に自らの手を回すと、小さく身震いをした。