サリーシャは、会釈してクラーラがひいてくれた椅子に腰をおろした。改めて目の前に座るセシリオを見ると、口を一文字に結んで、なぜかテーブルに並ぶ料理を睨んでいる。
 その時、サリーシャはふとあることに気付いた。パッと見はとても不機嫌そうに見えるのだが、よく見ると耳のあたりがほんのりと赤いのだ。これはもしかしたら怒っているのではなく照れているのだろうかと、サリーシャはセシリオをまじまじと見つめた。そして、少し迷ってから、セシリオに話しかけた。

「閣下? 今朝は朝食に同席させて頂き、ありがとうございます」
「いや、いいんだ。せっかくきみが遠くから来てくれたのだから、これしきのこと」

 途端にパッと表情が明るくなって嬉しそうに微笑んだ姿を見て、サリーシャの予想は確信へと変わる。
 サリーシャがこれまで貴族の世界で関わってきた男性は、フィリップ殿下を始めとして、とても女性の扱いが上手かった。みな甘く微笑み、そつなくダンスに誘い、話相手をこなす。初めて見るこのような男性の反応に、サリーシャは堪らずクスクスと笑いだした。

「どうかしたのか?」