■ 第一章 突然の求婚者

■ 第1話 夢の終わり

 夢の終わりは儚いものだ。
 川面に浮かぶ水紋のように、あるいは砂に描いた手紙のように、まるで最初からなかったかのように跡形もなく消え去る。
 ここにいた多くの人々には、確かにサリーシャがフィリップ殿下の隣に立つ未来が見えたはずだ。けれど、全員が示し合わせたかのように、そんなことは知らないふりをする。

 サリーシャは口元に笑みを浮かべてにっこりと微笑んだ。
 誰よりも美しくあるように、気高くあるように、そして何事にも動じていないかのように。

「殿下におかれましては、このようなよき伴侶に巡り会われましたことを、心よりお喜び申し上げます」
「ああ、ありがとう」

 フィリップ殿下はサリーシャの祝言に少しだけ口元を緩めた。皆を魅了する、その微笑みを浮かべて。

「ところで」

 フィリップ殿下の整った眉が僅かに寄る。

「サリーシャはこれからどうするのだ?」