■ 第二話 王都

 マオーニ伯爵邸から旅立ったときとは全く逆の道を進むこと十一日間。長い長い森林地帯と幾つもの町や村を通り過ぎ、ようやくサリーシャはかつて長らく過ごした王都へと足を踏み入れた。

 馬車から見える街並みは、ここを去った数ヶ月前と何ら変わらない光景を映している。流行の最先端を扱うお洒落なブティック、美しい宝石を扱う宝飾品店、花飾りや羽飾りを施した婦人用帽子店……
 通り沿いの歌劇場には、ちょうど今シーズンに上演中の演目のポスターが貼られていた。ポスターの中ではパイプを手にした貴婦人が通りを眺めて笑っている。その前に立っているのは若い貴族のカップルだろうか。腕に手を回して談笑しながら店に入る、身なりのよい男女の姿も見える。そこを行きかう人々は皆一様に笑顔で、人々の平和な暮らしが窺えた。

 豪華な八頭立ての馬車は、整備された道路を軽やかに進む。

 サリーシャとセシリオはまずは王都にあるタウンハウスに訪れた。アハマス辺境伯家のタウンハウスはサリーシャの住んでいたマオーニ伯爵家のタウンハウスとは中心街を挟んで反対側に位置していた。しかし、どちらも貴族や裕福な商人を始めとする富裕層の屋敷が立ち並ぶ、高級住宅地だ。