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「モーリス。実は危ないところだった」
「危ない? 何がだ??」

 翌朝、執務室で会うなりそう言ったセシリオの言葉に、モーリスは眉をひそめた。やっと王太子夫妻の婚約披露パーティーの件が片付いたのに、またどこかで紛争の種が沸き起こったのかと思ったのだ。
 いつになく深刻なセシリオの様子に、モーリスはゴクリと唾液をのみ込んだ。

「実はな……サリーシャがウェディングドレスに満足いってなかったようだ。危うく第二部隊のヘンリーの二の舞になるところだった」
「えっ! お前……、よかったな。事前に気付いて」
「ああ。本当に危ないところだった」

 女心と秋の空。
 いくらセシリオを慕っていると言って愛らしい笑顔を向けてくるサリーシャであっても、油断をしていると何が起こるかはわからない。結婚式を済ませるまでは気を抜けないのだ。

 花嫁の、ドレスへの想いを侮るなかれ。

 二人は顔を見合せると無言で頷き合った。

 まさかセシリオとモーリスがこんな会話を交わしていたとは、サリーシャは知るよしもない。