「フィルは、今日は来ないよ。大きな式典がある」
「式典? お父様が出席しているのと同じ式典かしら?」
「お父様?」
「うん。マオーニ伯爵」
「ああ、それなら一緒だろうな」

 男の人はぶっきらぼうにそう言うと、サリーシャの横の芝生の上にゴロンと横になった。
 また、先ほどのような静寂があたりを包み込む。聞こえてくるのは鳥の歌声と、時々それに混じって遠くで歓談している大人の声。
 サリーシャはこの突然の来客をまじまじと見つめた。貴族のようなよい格好しているが、こげ茶色の髪は貴族らしからぬ短髪だ。高い鼻梁と薄い唇、しっかりと上がった眉。年の頃は二十歳過ぎくらいだろうか。目を瞑っているのをいいことにジロジロと見つめていると、突然男の人がパチリと目を開けた。

「なんだ? ジロジロ見てきて」
「あ、ごめんなさい。──お兄さんは、その式典に出ないの?」
「出るさ。だが、まだ行きたくない」
「なぜ?」

 首を傾げるサリーシャを一瞥すると、男の人は自嘲気味にフッと鼻を鳴らした。

「つまらないいざこざの、勝利記念式典だ。なぜ俺がここに呼ばれたかわかるかい? 小さなレディ。『沢山やっつけたから、よくやりました』だとさ」