サリーシャは、ただただ信じられない思いでフィリップ殿下を見つめ返した。
機械時計の歯車がまわる、カチッカチッという音と、窓を揺らす風の音、そして、廊下を遠ざかるコツコツという足音。全てが聞こえてくるような、シーンとした静寂が二人を包んだ。
サリーシャは今言われたことを、頭の中で咀嚼する。その意味をしっかりと理解して確認するように、ゆっくりと時間をかけて。
フィリップ殿下はサリーシャに縁談を、と言った。王族が後押しした縁談であれば、辺境伯であるセシリオも身を引くしかないだろう。どんな男性達を宛がうつもりなのかは知らないが、きっと、フィリップ殿下がお墨付きをつけるだけのことがある、心身ともに立派な、良家出身の、見目麗しい男性に違いない。与える爵位も男爵などの低位なものではなく、少なくとも子爵位、あるいは伯爵位あたりかもしれない。
これ以上は思いつかないような光栄な話だ。サリーシャのことを考えて、フィリップ殿下が悩みぬいた末に決めたのだろう。でも……。
俯いたまま黙り込んでいたサリーシャは、意を決して顔を上げた。悩むまでもなく、自分の思いは決まっている。



