「そなたは、アハマス卿と婚約して、幸せか?」
「え?」
「そなたは『瑠璃色のバラ』とうたわれたほどの美貌だ。性格も優しく穏やかだ。密かにそなたに想いを寄せる男は多かった。まぁ、俺の婚約者候補だった故に表立って口説く奴はいなかったがな」
サリーシャは黙ってフィリップ殿下の話に耳を傾けた。何を言いたいのか、なぜ今そんな話をし始めたのかがわからなかったのだ。
「それは俺の近衛騎士隊の連中も同じだった。俺と会うためによく王宮を訪れていたそなたに、恋焦がれていた男は一人や二人ではない」
「──それは……身に余る光栄ですわ」
サリーシャはなんと答えればよいのかわからず、当たり障りのない返事を返す。
「だから、褒賞に縁談を、と思っていた」
「え?」
聞き間違えかと思った。
想像すらしていなかった話に、サリーシャは目を見開く。思わず目の前の相手を凝視するが、フィリップ殿下は真面目な顔でサリーシャを見つめ返すだけだ。