「そなたはあのような色欲にまみれた老いぼれには相応しくない。あの日、俺はこの日にチェスティ卿が婚約許可を取りに来るはずだと聞いて、そんな申請はその場で破り捨ててやろうと、はらわた煮えくりかえる思いで自ら待ち構えていた」

 フィリップ殿下はそこで一旦言葉を切ると、どさりとソファーの背もたれに寄り掛かって天井を見た。

「ところ、なぜか許可を取りに来たのはアハマス卿だった」

 部屋の中を、妙な沈黙が覆った。
 セシリオは、サリーシャに求婚に来た日にそのまま王室に報告に行くと言っていた。求婚された側のサリーシャとマオーニ伯爵すら知らなかったのだから、フィリップ殿下が知る由もないだろう。

「サリーシャ」

 ふいに呼びかけられて、サリーシャは顔をあげた。フィリップ殿下はまっすぐにこちらを見つめており、青い瞳と視線が絡まる。サリーシャはいつにないフィリップ殿下の真剣な様子に、コクンと息を飲んだ。