体の奥底からこみ上げる恐怖心に、サリーシャはぶるりと身震いをした。人は権力欲しさにここまで出来るものなのだろうか?
王室との縁が欲しくて色々と画策する貴族は多い。マオーニ伯爵がサリーシャにしたように、領地内で評判の美しい娘を養女にして淑女としての教育を施すのはその最たる例だ。しかし、人を殺めてまで縁を繋ごうとするのは、明らかに一線を越えていた。
「あれは非常によく考えて策略が練られていた。犯人の男の身元工作は完璧になされていて、俺が指揮する精鋭部隊ですら身元を明らかにするのにここまで時間を要した。それに、成功して上手くいけば自身は未来の国王の祖父として国政への発言力を増すことが出来る。万が一失敗した場合も、一番に疑われるのはダカール国だ。つまり、両国の関係が悪くなることで、自身の扱う軍事用品が飛ぶように売れる」
「だから、最初から武器を売ることを見込んで仕入れていたのか」
セシリオは忌々し気に吐き捨てた。
この短期間にこれだけの武器や防具を用意できるなど、常識では考えられない。最初からダカール国との関係悪化を見込んで、アハマスに売りつけるつもりで準備していたのだろう。



