辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する


 フィリップ殿下はそう言うと、サリーシャとセシリオの顔を見た。サリーシャとセシリオは、無言のままフィリップ殿下の話に聞き入った。

「貧しかった故に猟銃を持たずに古ぼけた短剣一つで狩りをしていて、その見事な腕前は隣町まで評判になるほどだったという。このアドルフは病弱な妹の治療費の工面に苦労していた。そんなアドルフの元に、ある日金持ちが仕事を依頼に来た」
「それが、ブラウナー侯爵だと?」とセシリオは、尋ねた。
「ああ」とフィリップ殿下は頷く。
「正確に言うと、ブラウナー侯爵から依頼された違法な闇商人だ。目的は一つ。万が一俺が自分の娘を婚約者に選ばなかった場合に、その男を使って選ばれた令嬢を亡き者にすることだ」

 サリーシャは驚きで目を見開いた。
 フィリップ殿下の婚約者候補は沢山いたが、その中でも特に有力視されていたのはサリーシャを筆頭に、マリアンネも含めた四名程度だった。フィリップ殿下は将来のタイタリア国王という立場上、必ず妻をめとる必要がある。もし、選ばれた婚約者がいなくなれば、婚約者選びはまた一からやり直しだ。その場合、選ばれるのは有力視されながら選ばれなかった残りの令嬢の誰か一人になる可能性が高い……。

「なんて恐ろしい……」