辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する


 セシリオはサリーシャをいつだって助けてくれる。どんな時も優しく包み込み、安心させてくれる。再会したその日から、それは今も変わらない。サリーシャにとって、セシリオはまるで夢物語の騎士様、いや、王子様のように素敵な男性だ。本当に、自分には勿体ない位に。

 宝石のように美しいヘーゼル色の瞳に目を奪われているとごほんっと咳払いが聞こえて、見つめ合っていたサリーシャとセシリオは同時に顔をそちらに向けた。テーブルを挟んだ向かい側で、なんとも言えない微妙な表情を浮かべたフィリップ殿下がこちらを眺めている。

「あー、そのだな……。サリーシャが落ち着いたなら、そろそろ話を始めてもよいか?」
「はい。お待たせいたしました」

 サリーシャは慌てて頭を下げると姿勢を正した。フィリップ殿下は小さく頷くと、少し身を乗り出すように肘を膝につく。そして、今回の事件の真相について、調査内容を話し始めた。それは、サリーシャの想像だにしていなかった内容だった。しかし、セシリオは薄々感づいていたのか、落ち着いた様子で話を聞き入っていた。

「まず、サリーシャをあの日刺した男だが、ブラウナー領にあるクロール村に住んでいた、アドルフという若い男で間違いない。猟師として生計を立てながら、腰を悪くした母親と病弱な妹を養っていた。父親は既に他界しており、家族思いのいい男だったと、周囲では評判だったようだ」