辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

「少しは落ち着いたか?」
「はい。……ご迷惑をおかけしました」
「迷惑などではない。きみが無事で本当によかった。俺が……俺が悪かった。以前の晩餐の際に奴の言動に違和感を持ったのに、十分な警戒をしなかった」

 隣に座り、心配そうにサリーシャの顔を覗き込んでいたセシリオが、ぐっと唇を噛んだ。

 セシリオのいう『以前の晩餐』とは、まだブラウナー侯爵が到着して間もない頃に開催した夕食会のことだ。ブラウナー侯爵はその時、『ならず者が()()()()()を狙った』と言い切った。しかし、公にされた情報では、『ならず者が()()()殿()()()()()()()()を狙った』とされていた。些細なことだが、セシリオはずっとそのことが、まるで喉に刺さった魚の骨のようにすっきりせずに引っ掛かっていたのだという。
 その表情から後悔と懺悔の気持ちを感じとり、サリーシャはふるふると首を振った。

「閣下は悪くありません。いつだってわたくしを助けて下さいますわ。今日も、わたくしを助けて下さいました」

 まっすぐにヘーゼル色の瞳を見つめる。自分が、心からそう思っていることが伝わるように。セシリオはぐっと眉を寄せるとサリーシャの手を包むように手を重ねた。サリーシャはその大きな手の上に、もう片方の手を重ねる。