辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

    ◇ ◇ ◇

 体の震えがようやく治まると、代わりにどっと疲労感が押し寄せてきた。

 カチャっと応接室のドアが開き、トレーにのせたティーセットを持った侍女が入室する。目の前のローテーブルにティーカップを置くと、慣れた手付きでポットから紅茶を注いでゆく。白い湯気に乗って、芳醇な香りがふわりと漂った。

「どうぞ」
「ありがとう」

 前に差し出されたティーカップの中では、琥珀色の液体が揺れていた。透き通って見えるカップの底に描かれているのは、バラだろうか。
 きっととてもいい茶葉を使っているだろうから迷ったけれど、なんとなくミルクティーが飲みたい。ティースプーンに一杯のお砂糖とミルクを足して一口口に含むと、優しい味わいが口の中に広がった。サリーシャはまだ若干こわばったままの体からふっと力が抜けるのを感じ、まるで生き返ったような感覚を覚えた。