何を言っているのか理解が出来ない。
事故? 狙ったときに、タイミングよくたまたまそんなことが、事故でおきるわけがない。
サリーシャはいまさっきマスケットレストから下ろした足元のマスケット銃を見た。ブラウナー侯爵は『不幸な事故』『銃の暴発』と言った。この銃には恐らく、何かしらの細工がされているのだ。サリーシャを事故に見せかけて殺すための何かが。あまりのことに恐怖で震える体を叱咤し、キッと睨み付けて叫んだ。
「あなたがわたくしを撃てば、明らかに事故ではないわ」
「ご心配には及びません。誤発射による事故死も多いのですよ。なんとでもなります」
ぐわんぐわんと頭の中で不愉快な警報音が反響し、足元がぐらぐらと揺れるのを感じた。
体から血の気が引き、声を出すことはおろか、どうして今立っていられるのかすらわからない。
バタバタと土を鳴らす音が近づいてくるのが聞こえたが、それが幻聴なのか、本当の音なのかさえも分からなかった。その直後、射撃演習場の出入り口の門がバシンと開け放たれた。
「サリーシャ!」
その呼び声を聞いた瞬間、サリーシャの体から一気に力が抜け、足元から崩れ落ちた。直後にマスケット銃が発射されるシュバーンという音があたりに響き渡った。



