サリーシャはくるりと振り返り、笑顔で答える。しかし、その笑顔は一瞬で凍り付いた。

「サリーシャ嬢。いいからその引き金を引きなさい。それとも、わたしの流れ弾に当たることをお望みかな?」

 振り返った先には、サリーシャにまっすぐに銃口を向けたまま佇むブラウナー侯爵がいた。

「ブラウナー侯爵。なにを……」
「あなたは本当に、人の計画の邪魔ばかりする。前回に引き続き、今回までも──。あなたに縁談を紹介すると言ったときに大人しく引き下がってくれれば、こんな事はしなくても済んだのですよ。なぜ予定通りに動かない?」

 サリーシャは目の前の状況が理解できず、目を見開いたままブラウナー侯爵を見た。ブラウナー侯爵は細い目を三日月のようにして、こちらを見つめている。銃口はこちらを向いたままだ。陽の光を受けて黒光りするそれを見て、目の前の人が本気だということを悟り、サリーシャはゴクリと唾を飲み込んだ。 

「わたくしにこんなことをして、セシリオ様は許さないわ」
「許さない? サリーシャ嬢、先ほど説明したでしょう? フリントロック式マスケット銃はとても信頼性が高い。しかし、その安全性は百パーセントではない。銃の暴発による事故死は、よくあることだ。これは、不幸な事故なんですよ」