サリーシャは射撃演習場を興味深げに見渡した。もうアハマスに来てから四ヶ月ほど経つが、ここに来たのは今日が初めてだ。周囲をぐるりと黄土色の石の塀に囲まれており、出入り口には大きな金属製の扉が付いている。
 そのとき、演習場の外から蹄の音と馬の嘶く声が聞こえることに気付いた。それも、一頭ではなく、沢山いるようだ。サリーシャはその音に反応して、音の聞こえる方向を見た。

「お客様かしら?」

 射撃演習場は誤発砲や的を外した流れ弾による事故の防止のため、高い塀に囲まれている。そのため、この演習場の中からだと、外の様子が窺えない。見えるのは黄土色の高い石の塀だけだ。
 ブラウナー侯爵も一瞬だけ馬の嘶く声がした方向を見たが、興味なさげにすぐに目を逸らした。

「ここの館は領主館と軍事施設としての機能が備わっていますからね。仕事関係の人間でしょう。それより、はじめますよ」

 ブラウナー侯爵から銃を手渡され、サリーシャはそれを受け取った。見た目は軽そうなそれは、手に持つとずっしりと重量があった。