朝食を終えて部屋に戻るとき、サリーシャは、ブラウナー侯爵に背後から呼び止められて足を止めた。

「サリーシャ嬢。今日は何か予定がありますかな?」

 ようやく憂鬱な食事の時間を終えて部屋のドアノブに手をかけようとしたサリーシャは、ブラウナー侯爵に突然そう聞かれて戸惑った。まさか、この人が自ら自分に話しかけてくるとは思わなかった。

「今日でございますか? 特に何も予定しておりませんわ」

 サリーシャは簡単にそう言うと、小首をかしげてみせた。

「なら、ちょうどよかった。昨晩、サリーシャ嬢はアハマス辺境伯夫人にふさわしい女性になれるよう指導して欲しいと言ってましたな。さっそく、わたしのかかわる武器などのいくつか必要な知識を授けて差し上げようかと思いましてね。()()()()()準備があるので、一時間後はどうです?」
「……」

 サリーシャは無言でブラウナー侯爵を見返した。昨晩あのやり取りをしたあとにこの態度。正直言って、ブラウナー侯爵の意図がわからず気味が悪いと思った。しかし、目の前のブラウナー侯爵はにこにことしており、ここで無下に断るのは失礼に当たることはサリーシャにもわかる。