■ 第四話 マスケット銃

 翌朝、暗い夜空がやっと青色を帯びはじめ、まだ日も昇らぬような時刻。
 忙しなく鳴く鶏もまだ夢の中、町一番の早起きのパン屋がようやく生地の仕込みを始めるような頃、アハマスの領主館の外門の前には数騎の騎馬隊が帰還していた。夜通し馬を走らせたせいか、皆、深緑色の軍服は埃で白っぽく汚れ、馬の脚には道中で飛び散った泥が付いている。

 寝ぼけまなこを擦りながら対応した外門の門番は、その騎馬隊の一人の顔を見るや否や、慌てて頭を垂れた。大きな門がギギギっと音を立てながらゆっくりと開く。
 騎馬隊は再び馬で駆け出す。そして、内門を通過し、馬を繋ぐため厩舎へとまっすぐに向かった。

 その後、一行は領主館の玄関から入ると次々と左側の執務棟へと向かい歩き始めた。その一団の中でも一際体格のよい男──セシリオは玄関ホールで立ち止まると、少し迷うように一度右側の居住棟へ続く暗い廊下を見つめた。まだ夜明け前の屋敷の廊下は明かりも消され、真っ暗だ。サリーシャに会いたいが、きっとまだあの愛らしい寝顔で眠っていることだろう。
 セシリオは小さく頭を振ると、先に執務室で成すべきことをするべきだと思い直す。踵を返すと結局はほかの部下達同様に左側の執務棟へと消えていった。

 そしてその三十分後、一行はまだ朝露の残る街道へと、再び馬に跨がって走り去っていった。