■ 第三話 狂気

 アハマスの領主館の正面玄関では、主の出立を見送るために多くの人間が集まっていた。たった二日の日程だが、行き先が行き先だけに、周囲には少しピリッとした緊張感が漂っている。
 そんな中、サリーシャも不安げな表情を浮かべたまま、セシリオを見つめていた。

 今日のセシリオは正装用の軍服の装いをしているため、いつもに増して凛々しく見える。屋敷に残る部下や使用人達に一言二言指示を出して行くセシリオが、サリーシャにはとても頼りがいがあって素敵な、大人の男性に見えた。
 少し強めの風が吹き、背後では騎士の持つタイタリア王国の国旗とアハマスの紋章がはためいている。

「少しだけ留守にするが、頼んだぞ。困ったことがあれば、ドリスかクラーラ、モーリスに言うんだ」
「分かりました」

 皆に伝えるべき指示を出して、最後にサリーシャの前に立ったセシリオに、サリーシャはしっかりと頷いて見せた。本当はとても不安だが、心配させてはいけない。無理に笑ったせいで、顔が少しひきつってしまう。