辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する


「きみに傷を負わせた男の素性は不明とされているが、フィリップ殿下はずっと調査を続けていた。前回の親書によると、ようやく尻尾が掴めそうらしい。ホシの狙いはダカール国と険悪にさせることだ。あちらの狙い通りに動いて油断させた方が、炙り出しやすい」
「あの事件の捜査は、殿下が指揮しているのですか?」
「ああ、そうだ。きみがあんな目にあって、殿下が何もせずに黙っているわけがないだろう?」

 サリーシャは白い封筒を見つめながら、もう数ヶ月も会っていない友人の顔を思い浮かべた。金の髪に青い瞳、すっきりと通った鼻梁は高すぎず低すぎす絶妙な高さ。とても凛々しい友人は、皆に優しく穏やかな性格で、物語の中の王子様をそのまま具現化したような人だった。
 最後にフィリップ殿下を見上げたとき、彼はサリーシャを見下ろして泣きそうな顔をしていた。ふと思えば、こんなにもフィリップ殿下に会わないのは初めてかもしれない。

 ──フィルは今頃、どうしているのかしら?

 サリーシャは、ずっと会っていない友人をとても懐かしく思った。

「実は、殿下にはあの事件のあと、お会いしていないのです」
「……実は、きみとの婚約を王室に報告に行ったとき、対応したのがフィリップ殿下だった」
「殿下が?」