辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 サリーシャはそれの説明を聞きながら、ハッとした。いつぞやか、サリーシャがセシリオの部屋を訪ねた日に、モーリスが早馬で届いた親書のことを『黄色い』と言っていたのを思い出したのだ。
 もしや、あれは封蝋の色を指していたのではないか。そして、最近ずっと胸のわだかまりになっていることにも、もしかして……と考えが至った。

「もしや、ブラウナー侯爵が殿下から預かってきた親書は……」

 サリーシャの呟きに、背後のセシリオが肯定するように撫でていた手で優しく頭を寄せる。

 サリーシャはずっと不思議に思っていた。セシリオは戦争にならないと言うのに、何故ブラウナー侯爵が持参したフィリップ殿下からの親書には戦争の準備を促すようなことが書かれていたのか。ブラウナー侯爵が持ってきた親書がダミーであるとすれば、色々と腑に落ちるのだ。

「でも……。なぜ、そんなことを?」

 訝し気に眉をひそめるサリーシャをセシリオはきゅっと抱きしめた。耳元に口を寄せると、サリーシャにしか聞こえないような小さな声で言った。

「前にも言ったが、近々きみが傷を負ったあの事件に関して、大きな動きがあるかもしれない」

 サリーシャは息をのみ、体を小さく震わせた。刃で死にそうな傷を負わされた恐怖は今も消えない。