「サリーシャ。実は……傷のことは最初から知っていた。だが、クラーラ達とも相談して、きみが気にしているかもしれないから口に出すのはやめていたんだ。……逆効果だったな。きみが何かに悩んでいるのに気づいた時点で、この事に気づくべきだった」

 セシリオの手が軍服越しに優しく背中を撫でる。

 それを聞いたとき、自分はなんて馬鹿な思い違いをしていたのだろうかと思った。
 思い返せば、ヒントはたくさんあった。ここに来たときにサリーシャのために用意されていたドレスは、若い女性向けにも関わらず全て背中が隠れるデザインだった。マリアンネから意地悪を言われたとき、これが似合うとセシリオとモーリスは庇ってくれた。着替えや湯浴みを一人、もしくはノーラとしかしたがらないサリーシャに対し、クラーラは疑問ももたずに好きにさせてくれていた。

 たった一言だけどちらかが言えれば、こんなにお互いが誤解して拗れることにはならなかったのに。その一言が、どうしても言えなかった。

「服を……」

 しばらくすると、セシリオが周囲を見渡して呟く。温かな熱が離れようとするのを感じ、サリーシャは咄嗟に背中に回していた腕の力を込めた。困惑気味にこちらを見るセシリオを、サリーシャはまっすぐに見上げた。