辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する

 サリーシャは困惑気味にセシリオを見た。それはつまり、サリーシャの嘘を見抜けなかった自分自身に怒っていると言うことだろうか。
 顔を片手で覆ったままだったセシリオはゆっくりとその手を下ろすと、真剣な眼差しでサリーシャを見つめた。

「見せてくれ」
「え?」
「その傷を、見せてくれ。この目で見ないと、納得できない」

 サリーシャはコクンと息をのんだ。
 傷痕の状態はこの屋敷を飛び出す前に鏡で確認した。薄暗くライトダウンしたサリーシャの部屋で鏡越しに見てもはっきりとわかるほどの酷い傷痕が、右肩から左わき腹にかけてはいっていた。このような明るい執務室で直接見たら、見るに堪えないほどの醜さだろう。最悪の場合、化け物呼ばわりされるかもしれないと思った。

「……今、ここでですか? こんな明るいところでお見せするのは……」

 震える声でなんとか紡いだのは、そんな言葉。セシリオは考えるように手を顎に当てた。

「では、暗い部屋でならいいか? 行こう」

 立ち上がったセシリオがサリーシャの手を引いて促したのは、壁にある出入り口とは違うもう一つのドアだった。