じんわりと視界が滲むのを感じた。
 なにも答えないサリーシャに痺れを切らしたように、セシリオが質問を変えた。

「どこに行くつもりだったんだ?」
「……以前、閣下と訪れた支援施設に。一人で生きていこうと思いました」
「──サリーシャ」

 深いため息まじりに、セシリオは言う。

「あそこはやむにやまれぬ理由で庇護を必要とする者が身を寄せる場所だ。家出人を匿う場所ではない」
「はい……」

 セシリオの言うとおりだった。彼らは戦争で夫や両親を失い、あそこに身を寄せなければ生きていけない人々だ。傷付くことが怖くてここを飛び出した自分とは、根本的に違う。なんと甘ったれた考えをしていたのだろうかと、自らに呆れてしまう。
 謝らなければと思ったのに言葉が出てこず、かわりにハラリと頬を涙が伝った。水色のスカートには青いシミができる。とめどなく溢れるそれはポタリ、ポタリと滴り落ち、スカートを水玉模様に染めた。

 シーンと静まり返った部屋に、チクタクと時を刻む時計の音だけが響く。サリーシャはぐっと唇を噛み、俯いた。