落ち着き払ったように聞こえる声は実際には固く、サリーシャには彼が怒っていることがすぐに分かった。こんなことをしでかして、怒らないでくれという方が無理がある。

「申し訳ありません……」

 俯いたままなんとか声を絞り出すと、セシリオが深いため息をつくのが聞こえた。サリーシャはビクンと肩を震わせる。

「謝って欲しいわけではないんだ。あんな行動をした理由を教えてくれ。一歩間違えれば、強盗に襲われて命を落とす可能性だってあったんだぞ」
「……」

 何かを言わなければならないと思うのに、声が出てこなかった。無我夢中で後先考えずに行動したので、強盗に襲われる可能性なんて微塵も考えていなかった。

 ──わたくしは、今まであなたを騙していました。
 ──わたくしは傷物なので、あなたには相応しくありません。
 ──どうかマリアンネ様とお幸せになってください。
 ──今までお世話になりました。そして、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。

 言うべき言葉は頭では分かっているのに、どうしてもそれが口にできなかった。自分勝手だと分かっていても、別れなど告げたくはないし、セシリオとマリアンネが寄り添う姿など想像したくもない。