サリーシャはその瞳の色にちなんで、社交界では『瑠璃色のバラ』とうたわれたほどの美しき伯爵令嬢だ。しかし、この傷ではまともな結婚話があるわけもなく、養父のマオーニ伯爵は最近とても不機嫌だ。わざわざ田舎娘を養女にして、多くの家庭教師を付けて多額の投資の上で王太子妃にする計画を立てていたのに、その計画が完全に失敗した。更には、有力貴族に輿入れさせることもできない傷物になったのだから、それも当然だろう。

 サリーシャは小さくため息をつくと、のそのそとベッドから起き出した。


***


 その日の昼下がり、珍しくサリーシャの私室を訪れたマオーニ伯爵は部屋に入ってくるなり、真っ白な上質紙と額に入った小さな姿絵を差し出した。

「サリーシャ。お前に縁談だ」
「わたくしに縁談?」

 サリーシャはマオーニ伯爵と差し出された手紙と姿絵を交互に見比べ、おずおずとそれを受け取った。早速封を開き、中を確認する。

「チェスティ伯爵ですか」