銃や大砲を戦争で使用するためには大量の弾薬を必要とする。ブラウナー侯爵は、これについても驚くほど短期間で考えられないほどの量を用意できると言い切った。しかも、こちらが指定した武器庫まで運送してくるという。

「助かります。代金は後でまとめてでも?」
「構いません」

 セシリオは請求額が書かれた書類から顔をあげると、こめかみを指で押さえた。今まで売り込みをされたこれらを全てまとめて支払うと、アハマスの年間の領地収入に匹敵する額になる。なんとか支払えない額ではないが、領地経営に支障が出るほどの額だ。逆に言うと、領地は広いものの、そこにこれといった大きな収入源のないブラウナー侯爵家からすると、何年分もの収入に相当するはずだ。

 話し合いが終わると、ブラウナー侯爵は自慢の髭を右手で軽く触り、大袈裟に口をへの字にして見せた。

「サリーシャ嬢のことですが、わたしは賛成しかねますね。彼女は長らくフィリップ殿下と親しくしていた。実は愛人だったのではと疑っています」

 セシリオは内心で深い溜め息をついた。また始まった、としか言いようがない。ここ数日、セシリオは再三にわたってブラウナー侯爵にサリーシャとの婚約を解消するつもりが無いことを伝えている。にも関わらず、馬耳東風の状態だ。
 しかし、今回は聞き捨てならなかった。サリーシャとフィリップ殿下が愛人関係など、言いがかりもいいところだ。セシリオはサリーシャに求婚するに当たり、一通りのことを部下に調査させた。調査報告を読んだ限りでは、そんなことはどこにも記載されていなかった。

「憶測でものを言われては困ります。彼女とフィリップ殿下はそのような関係ではないはずだ」