■ 第七話 逃避

 セシリオは怒鳴り出したい衝動を必死に押さえつけながら、その男と向き合っていた。フィリップ殿下から託されたと渡された親書の()()()封蝋には、確かに王室の紋章が押されていた。内容は予想どおり、ダカール国との開戦に備えよ、という内容だ。

 ブラウナー侯爵は到着以降、熱心に武器の売り込みをしている。それは彼の仕事なので別に構わない。セシリオが我慢ならないと感じていたのは、娘であるマリアンネを自分の妻にとしきりに薦めてくるだけでなく、ブラウナー侯爵がサリーシャを(おとし)めるような発言や態度を繰り返していたことだった。

 その日も夕食後にセシリオの私室を訪ねてきたブラウナー侯爵は、武器の売り込みを始めた。昼間は領地経営と軍隊の指揮で忙しいセシリオはブラウナー侯爵に十分に時間を割けていない。そのため、セシリオが高確率でつかまるこの時間帯を狙ってきたのだろう。
 以前の剣と弓矢のみを使った戦いの時代は終わりを告げ、近年台頭しているのは火薬を使った新型兵器だ。しかし、この新型兵器はまだ出始めて間もないため、なかなか手に入らない。それらを短期間に大量に用意できると言い切ったブラウナー侯爵は、なかなか油断ならない男だ。

「必要な弾薬はあと三日で指定の倉庫に到着する予定です」