サリーシャがそう伝えると、寝台を覆うドレープの裾が引かれ、明るい太陽の光が差し込んできた。春の日差しは布団を覆うベッドカバーの刺繍柄を明るく浮き上がらせる。

「九時ですわ」
「そう。そろそろ起きるわ」
「かしこまりました」

 起き上がろうと腕に力を入れると、その途端に背中に引き連れるような痛みが走った。

「痛っ」

 サリーシャは小さく悲鳴を上げ、片手で背中を触れる。指の先にあたるぼこぼことした手触りは、傷の跡だろう。触っただけでも盛り上がって醜い傷になっていることがわかる。一度だけ鏡越しに見たとき、そこには背中に斜めに入る赤紫色の醜い裂傷の跡があった。もうきちんと塞がっているのに、体を動かすと時折引き攣れるような痛みが未だに襲ってくる。

 ノーラに手伝ってもらいながら傷跡を完全に覆うような詰襟のワンピースを身に着けると、一見すると控えめな印象の淑女が出来上がる。けれど、サリーシャが二ヶ月前にフィリップ殿下の婚約披露会で背中に傷を負ったのは周知の事実だ。