あの日、見つめ合うフィリップ殿下とエレナを見て羨ましかった。
 自分もあんな風に笑い合える人が出来たら、と夢見た。

 ──夢は所詮、夢なのね。

 そんな未来はあるわけがないと知っていながら、厚かましくもこの人とならそうなれるかもしれないと、夢見ていた。自分を愛してくれるならば、背中の傷も受け入れてくれるはずだと、愚かな思い違いをした。

 ──わたくしはなんと、馬鹿なのだろう。

 瞳から零れ落ちそうになるものを片手で拭うと、サリーシャは一人そこから走り去った。